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地方創生は、歴史と先人を知り、愛することから

著者名:栃木県副知事 岡本 誠司


 栃木県は、豊かな自然、おいしい農畜産物を有し、大規模な工場も立地するものづくり県であり、また多彩な観光・文化資源を有するなど様々な顔を持っていますが、さらに素晴らしい歴史と先人を有しているという点をクローズアップさせてくれたのが、宮本誠さんの栃木の武将『藤原秀郷』をヒーローにする会の取り組みです。



藤原秀郷一源平と並ぶ名門武士団の成立


古代から下野国は、東国の要の地でした。その下野国の武芸と軍略に優れた武将であった藤原秀郷は、平将門の乱(935-940年)を見事鎮圧し、その功績により武門の頂点として東北支配にあたる鎮守府将軍に任命されました。


 まさに中世東国武士の祖であり、その後下野国には小山氏、結城氏、長沼氏、佐野氏等武芸に秀でた秀郷流名門武士団が形成されたことを考えれば、2018年10~12月に開催された県立博物館の企画展のタイトルが「藤原秀郷一源平と並ぶ名門武士団の成立」であったこともうなずけます。


 藤原秀郷は政治・軍事的活躍にとどまらず、近江の国での俵藤太の大ムカデ退治伝説や、宇都宮の百目鬼退治伝説など、様々な逸話、英雄伝説を残している人物でもあります。



地域創生を目標としたプロジェクト


 栃木に生まれ、武士の始まりと言われる藤原秀郷の功績を「藤原秀郷ブランド」として再構築し、県民のシビックプライドを醸成し、地方創生を実現することを目標としたプロジェクト、(株)みやもとの 栃木のヒーロー『藤原秀郷』伝説(栃木の武将『藤原秀郷』をヒーローにする会)における活動が、この度公益社団法人企業メセナ協議会により、芸術文化を通して豊かな社会づくりに参画する企業を顕彰する「This is MECENAT 2020」に認定されました。誠におめでとうございます!



藤原秀郷への思い


私も個人的に藤原秀郷に強い思い入れがあります。それは私を歴史好きにしてくれた人物だからです。1976年にNHK大河ドラマとして放映された『風と雲と虹と』。主演は平将門役の加藤剛さん。藤原秀郷(田原藤太)役は露口茂さん。幼かった私が見た初めての大河ドラマでしたが、ストーリー展開、演技の素晴らしさに魅了され、自分が歴史大好きとなる転機となりました。今から振り返ってみても、心から感謝!です。



地域創生の成功例 愛媛の松山市「坂の上の雲」


 地方創生に取り組む時、歴史と先人を軸として大きな成功をおさめる例が各地に現れてきています。その一つの典型例が、四国・愛媛の松山市が行ってきた「坂の上の雲」に関する取り組みです。


 いうまでもなく「坂の上の雲」は作家司馬遼太郎氏の代表作ともいえる小説で、明治維新を成功させて近代国家としての道を歩み出し、日露戦争勝利に至るまでの発展期の明治日本を、松山出身の3人の若者、日本陸軍騎兵部隊創設者の秋山好古、その弟で海軍の日本海海戦の戦術の創案者の秋山真之、真之の親友で明治文学史に大きな足跡を残した俳人正岡子規を主人公として話が進行していく物語です。


 昭和40年代に産経新聞の連載小説として大変な好評を博しましたが、1999年に中村時広氏が「坂の上の雲のまちづくり」を公約に掲げて松山市長選に勝利するまでは、坂の上の雲に関心を抱く市民は少数だったといいます(ちなみに中村氏は現在愛媛県知事)。


 その後、松山市は「坂の上の雲のまちづくり」を強力に推進していきました。 

主人公3人が抱いた高い志とひたむきな努力、夢や希望をまちづくりに取り入れたのが「坂の上の雲のまちづくり」であり、まち全体を屋根のない博物館としたフィールドミュージアム構想の推進や、中核施設としての「坂の上の雲ミュージアム」の開館、さらにNHKが「坂の上の雲」を2009年から2011年まで3ヶ年にわたって、スペシャルドラマ(計90分×13本)として放映したことから、松山は観光等により大きな盛り上がりを見せ、また私もその一助を担い、実際にその効果を体験しました。


 もちろんそこに至るまでは関係者の大変な努力の積み重ねがあったわけですが、地域に根ざした取り組みは今日にもつながる大きな財産となっていると思います。



藤原秀郷をテーマとした取り組みについて


 藤原秀郷をテーマとした取り組みは、既に広がりを見せはじめています。佐野市は今年から「佐藤さん ゆかりの地 聖地化プロジェクト」を開始しました。 

 

 佐藤姓に関し、藤原秀郷の子孫が「佐野の藤原氏」の意味で「佐藤」と名乗ったことが始まりとの説があり、語呂合わせの意味もあってか「三月十日」に立ち上げたとのこと。秀郷が居城にしていた佐野市の唐沢山城を聖地とし、佐野市を「佐藤さんのふるさと」と位置づけて、まちの魅力アップを目指しています。


 明治安田生命の2018年調査によると、東北六県で約50万人の佐藤性の方がいて、青森県を除く5県で最多姓であるとのこと。藤原秀郷を祖とする奥州藤原氏の影響が大きいと考えられます。


 この事業は国の地方創生交付金を活用したもので、私も国に採択の要望に行き説明を行いましたが、関係者の関心が高く、国の幹部からいろいろと質問を受けたことを想い出します。



おわりに


 このように広がりを見せる「藤原秀郷」。また、宮本さんの活動は、坂東武士図鑑などで、わかりやすく説明してくれるのもいいですよね。

 栃木県民がもっと藤原秀郷を知ることで、県民が栃木をもっと好きになり、誇りを持ち、それがまた新たな栃木づくりへとつながっていく。栃木のヒーローをめぐる活動がさらに盛り上がりを見せることを心より期待しております!


2020年9月14日 寄稿

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