【第13話】「鎌倉殿」の森蘭丸?ご寝所警備の結城朝光(2022年7月9日 投稿)
水野先生コラム:13回目
ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌
小山3兄弟の末っ子・結城朝光は、少年のときから源頼朝のそば近くで雑用や護衛をこなした側近中の側近です。お気に入りのお小姓というか、織田信長に仕えた森蘭丸のような存在だったのです。1181年(治承5年)には頼朝ご寝所警備の11人の一人に選ばれていて、信頼がとても厚かったことがうかがえます。
■少年のころから頼朝のそば近くで仕える
1180年(治承4年)10月、母・寒河尼が隅田宿(東京都墨田区)に訪ねたとき、挙兵直後の頼朝は大いに喜び、寒河尼が連れていた七郎を元服させ、しかも烏帽子親にもなって、「宗朝」と名を与えています。この名を与えられた「小山七郎宗朝」が後の結城朝光です。
朝光はこのときから頼朝に近侍します。常に頼朝のそば近くに控え、いろいろな雑用もこなす小姓のような立場です。
『吾妻鏡』は、このときの結城朝光の年齢を14歳(数え年)としています。ただ、同じ『吾妻鏡』でも死亡記事は、1254年(建長6年)、87歳で死去としているので、1168年(仁安3年)生まれとなり、1180年は13歳のはずです。
13にしろ14にしろ、若武者というより少年といった年です。満年齢だと、小学6年生か中学1年生で頼朝の秘書兼ボディーガードのような役割を担うことになったのです。
■武勇と忠義で選抜「鎌倉殿の11人」
1181年4月7日、『吾妻鏡』によると、御家人の中で弓矢に優れ、忠誠心の厚い者11人が選ばれ、頼朝の寝所近辺を警護することが定められました。ご寝所警護の11人、「鎌倉殿の11人」です。この11人に結城朝光も選ばれました。
交代で夜間警護をする役目。屋敷周りだけでなく、ご寝所、部屋近くでの警備と思われます。いざというとき、裏切らない、逃げ出さないという者でないと任せられない任務です。また、それだけ信頼が厚ければ、ときには頼朝のひそひそ話の相手となることもあったかもしれません。
選ばれた11人は、有力御家人の子弟が多く、40~50代の者もいますが、20代前後の若者も多く含まれています。北条時政の跡継ぎ・北条義時や梶原景時の嫡男・梶原景季らは父の役職を継ぐことが想定された将来の幹部候補。若いときから頼朝のそばで考え方を共有する意味合いもありそうです。その中でも14歳か15歳の結城朝光は最年少です。
なお、このときの『吾妻鏡』の記事では「小山朝光」ではなく、「結城七郎朝光」の名で書かれています。結城に所領を得て、「結城」の苗字を名乗るのは早くても野木宮合戦の後。1183年(寿永2年)2月説が有力な野木宮合戦について、1181年(治承5年)閏2月説も考慮すべきポイントになると思うのですが……。後の書き換えの可能性もあって確実な証拠とは言えませんが、北条義時を「江間四郎」と書いてあり、当時の史料を基にした可能性があります。
■怪しげな隠し子説
頼朝から気に入られた結城朝光には「頼朝の隠し子」といった説(御落胤説)があります。伊豆配流中の頼朝の世話をしていた寒河尼の娘との間にできた子という史料があるらしいのですが、寒河尼に娘がいたとして、年齢的にあり得なくはないといった程度で、現実味の薄い伝承というしかありません。
また、この伝承がもとになっているのかどうかは不明ですが、結城氏関連の系図の中には結城朝光の実父を頼朝とするもの、源氏の流れとするものもあります。先祖の出自、経歴を良く見せるために改竄することは、系図類にたまにみられることで、これも確かな根拠にはなりません。源氏、ひいては徳川家との結びつきを強調する狙いで伝承を利用したものだと思われます。
頼朝の隠し子説は近い時代の史料にはありません。『吾妻鏡』の中で結城朝光が頼朝に大きな恩を受けたと強調する場面がありますが、血縁については言及していないのです。
一方、『吾妻鏡』には頼朝の隠し子については明記されています。藤原時長(伊達朝宗か)の娘・大進局との間に生まれた子で、僧侶となる貞暁です。北条政子の怒りを恐れ、出産の儀式を省略したとか、貞暁上洛の際は前日に頼朝がこっそり対面したとか、いろいろ書かれています。取り立てて秘匿してはいません。結城朝光が頼朝の隠し子であれば、何らかの記述があったはずで、この点からも隠し子説はかなり怪しいようです。
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