【第24話】比企能員の変 一族滅亡と「鎌倉殿」源頼家失脚(2022年12月16日 投稿)
水野先生コラム:24回目
ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌
1203年(建仁3年)、梶原景時に続いて鎌倉幕府の有力御家人が粛清される事件が起きます。比企能員の変です。第2代将軍・源頼家の後見役として権勢を振るった比企能員はあっけなく北条時政の謀略で滅亡し、頼家も将軍の地位を追われます。北条氏独裁への流れを決めた事件です。
■ 将軍・頼家の周囲を固める比企人脈
比企氏は藤原秀郷の子孫。秀郷流藤原氏の中で波多野氏の流れです。そして比企尼は源頼朝の乳母であり、頼朝が流人だったときも米などを仕送りして生活を支えます。ここらへんの事情は 【第5話】母性愛か先物買いか?頼朝支えた比企尼 などを参照に。
比企尼は頼朝の恩人と言えます。頼朝挙兵後、比企氏は優遇され、特に比企尼の甥で養子となった比企能員は重要ポストを手にします。頼朝の嫡男・源頼家の乳母に比企能員の妻や比企尼の次女、三女が起用され、比企能員も妻とともに頼家養育に関わったはずです。母・北条政子の実家である北条氏よりも比企人脈が頼家の周辺をがっちり固めていたのです。頼家の妻・若狭局も比企能員の娘です。
頼朝死後、「鎌倉殿」となった頼家は比企氏を重用。比企能員は13人の合議制(いわゆる「鎌倉殿の13人」)メンバーであり、幕府の重要閣僚。比企能員の三男・比企三郎(実名不詳)、四男・比企時員も頼家側近となります。
この側近連中は頼家の威光をかさに着てやりたい放題。頼家への面会はこの側近を通さないといけないし、狼藉(ふらちな振る舞い)も不問。頼家の命令で安達景盛(安達盛長の嫡男)の留守中にその愛人を連れ去った事件には比企三郎も加わっています。
■北条時政の謀略?比企能員をだまし討ち
北条時政も黙っていません。比企対北条の対立が激化します。
先に仕掛けたのは比企能員。1203年(建仁3年)5~7月、源頼家の命令を受け、頼朝の異母弟・阿野全成やその三男・頼全を逮捕、殺害。その間、全成の妻・阿波局(北条政子の妹)の引渡しを要求しますが、政子がはねつけます。比企能員の強烈な揺さぶりで、北条時政は将軍・頼家の抵抗勢力になりかねない状況でした。
7月、事態が一転。頼家が急病となり、北条時政が攻勢に出ます。8月下旬には頼家の弟・実朝と頼家の嫡男・一幡で関東・関西の地頭職を分割して継承することを決めてしまいます。病気にかこつけ、比企氏の影響力の強い頼家を強制的に引退させようと図るのです。
『吾妻鏡』によれば、頼家と比企能員は北条時政追討を図り、病床での密談を北条政子が立ち聞きして時政に伝えたのが、比企能員の変のきっかけになりますが、これはさすがにでき過ぎ。『吾妻鏡』の北条氏に都合の良い記述が目立つ部分です。
そして9月2日、一気に勝負がつきます。比企能員は北条時政に仏事を理由に呼び出されたところを天野遠景、仁田忠常に暗殺されます。比企能員は警戒してはかえって怪しまれると、武装兵もつれず、北条時政邸に平服で乗り込み、あえなく討たれたのです。
事変を知って比企一族が立て籠もった一幡の館・小御所を北条義時らの大軍が襲撃。小山3兄弟や畠山重忠ら多くの有力御家人が比企一族討伐に参加し、小御所を攻めました。御家人は将軍・頼家よりも実力ある北条氏になびいたのです。
北条時政のだまし討ちで比企一族を滅ぼしたのです。将軍・頼家は危篤状態から脱しますが、出家して伊豆・修禅寺に幽閉され、1年後に暗殺されます。
■どんどん消える「鎌倉殿の13人」
源頼家が「鎌倉殿」の地位に立った直後、1199年(建久10年)4月に組織化された13人の合議制、すなわち「鎌倉殿の13人」ですが、あっという間に5人が消えてしまいます。
1200年(正治2年)には梶原景時が粛清され、三浦義澄、安達盛長は病死。早くもメンバーが3人欠けます。1203年(建仁3年)に比企能員抹殺。1205年(元久2年)には梶原景時、比企能員粛清の主役だった執権・北条時政が追放されます。鎌倉幕府の内閣は組織されたとたんに崩壊が始まっていたのです。
権力は新執権・北条義時と尼将軍・北条政子に集中。北条氏主流「得宗」の独裁へと進み、その権勢は将軍をもしのぎ、有力御家人も生き残りに汲々とするようになっていきます。
【次回のコラムも乞うご期待!】
▼前回【第23話】のコラムを見る▼
▼水野氏の新刊が発売されました!
「鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?」はAmazonにてご購入いただけます♪(詳しくは下の画像をクリック)
SNSでお友達やご家族にシェアをお願いします♪
Comments