【第28話】承久の乱、小山3兄弟の活躍は? 上皇の密書、幕府遠征軍の大将軍「荒言悪口の者」(2022年12月29日 投稿)
水野先生コラム:28回目
ライター:『鎌倉殿と不都合な御家人たち 「鎌倉殿」の周りに集まった面々は、トラブルメーカーばかり?』(まんがびと)『小山殿の三兄弟』(ブイツーソリューション)、『藤原秀郷』(小学館スクウェア)著者・水野拓昌
1221年(承久3年)、鎌倉幕府と後鳥羽上皇が激突しました。承久の乱です。このとき、小山3兄弟(小山朝政、長沼宗政、結城朝光)は鎌倉幕府の有力御家人としてそれぞれの立場で働きます。この大事件に小山3兄弟も大きく関わっているのです。
■ 実朝暗殺時に不在?小山朝政、結城朝光
承久の乱の2年前、1219年(建保7年)1月27日に将軍・源実朝が甥の公暁(実朝の兄・源頼家の遺児)に暗殺されます。後鳥羽上皇と実朝の関係は悪くなかったので、独裁を強める執権・北条義時に対する上皇の不信感は決定的になりました。
不可解なのは事件当日、鶴岡八幡宮参拝の随兵1000人の中に小山3兄弟がいなかったことです。『吾妻鏡』に1000人全ての名が書かれているわけではありませんが、それまで小山一族は重要な行事では常にいいポジションで参列、『吾妻鏡』にも明記されていました。
この日の不在は理由があります。前年1218年(建保6年)12月26日、随兵の差し替えがあり、小山朝政、結城朝光は喪中を理由に外されました。代わりに選ばれた武士はその名誉を喜んだほどです。
実朝を暗殺した公暁の背後に黒幕がいたのか、実朝を守る随兵の中に小山朝政、結城朝光がいることを不都合に思う者がいたのかと、いろいろ想像したくなります。
怪しいのは、有力御家人ながら参列せず、事件直後に公暁を抹殺した三浦義村。さらに、北条義時は途中で腹痛を理由に列を離れ、代わりを務めた源仲章は公暁に斬られています。彼らが事前に何かを知っていた、あるいは何かを企てていた可能性は大いにあります。
■後鳥羽上皇の密書を受けたのは…?
『承久記』によると、後鳥羽上皇は挙兵にあたり、北条義時追討の院宣を関東の有力御家人8人に送りました。小山朝政、長沼宗政、宇都宮頼綱(蓮生)、足利義氏、武田信光、小笠原長清、三浦義村、北条(義時の異母弟)で、8人のうち半分は下野の御家人です。
有力御家人に北条義時への対抗心があるとにらんだのか、御家人の内紛を誘うつもりだったのか、上皇の目論見は不明ですが、甘い見通しというしかありません。1人も上皇に味方せず、幕府に報告。三浦義村は弟・三浦胤義が上皇方でしたが、あっさりこの弟を見放しています。
5月19日、こうして後鳥羽上皇の計画が露見すると、北条政子が御家人に呼びかけました(『吾妻鏡』によると代読)。
「故右大将軍(源頼朝。右近衛府の長官・右近衛大将の官職を得ている)が鎌倉を武士の都として以来、官位といい俸禄といい、その恩は山よりも高く、海よりも深いものです。名を惜しむ者は逆臣を討ち、源氏3代の恩に報いなさい。ただし、院(後鳥羽上皇)に付きたい者は直ちに申し出なさい」
この名演説で御家人たちは一致団結。幕府軍は3ルートに分かれ、東海道10万騎、東山道5万騎、北陸道4万騎、総勢19万騎の大軍で京をめざします。
各ルートに大将軍が数人いて、東山道の大将軍に結城朝光と小山朝政の嫡男・小山朝長、北陸道の大将軍の一人に結城朝広の名もあります。結城朝広は結城朝光の長男で32歳、小山朝長は34歳。3兄弟の子息たちも有力御家人に成長し、大将軍を務めました。なお、長沼宗政は東海道軍に参加し、小山朝政は鎌倉に残留しました。
■長沼宗政は戦功で淡路国守護に
幕府軍は上皇方の防御ラインを次々と突破。小山朝長も6月5日夜の美濃・大井戸の戦いで活躍します。6月13、14日には宇治川で激戦が展開され、15日には幕府軍が京市中へ強行突入。後鳥羽上皇は幕府軍に使者を送り、上皇方の中心人物だった三浦胤義、藤原秀康を朝敵と認めます。事実上の降伏です。
ちなみに秀康は藤原秀郷の子孫。西面武士として後鳥羽上皇に仕え、上皇の院宣を関東有力武将に届けた密使も秀康の従者・押松です。挙兵の際は京都守護・伊賀光季(伊賀氏も秀郷流)を攻め殺しました。上皇方の実戦指揮官です。
結局、承久の乱は鎌倉幕府の圧勝。後鳥羽上皇は7月、隠岐配流となります。
長沼宗政は6月25日、摂津国守護に任命されます。具体的な活躍は不明ですが、大きな戦功があったようです。7月20日には淡路国守護に任じられますが、これは摂津国守護からの異動のようです。鎌倉時代を通じて淡路国守護は長沼氏が世襲します。
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